九州大学 大学院工学研究院 材料工学部門

研究内容について(Research)

次世代型高耐食性鋼板の開発を目的とした組成変調型Zn系複合電析膜の創製
~固形分散粒子を含まない非懸濁溶液からの複合電析膜の開発~

めっき時に酸化物,炭化物,窒化物等の微粒子をマトリックス金属と共析させる複合めっきは,素材に耐摩耗性,潤滑性および耐食性などの機能を付与することができるため,これまでに多数の研究開発が行われています。従来の複合めっきでは,分散材として難溶性の微粒子を電解液中に懸濁させ,マトリックス金属の電析の際にその微粒子を皮膜中に取り込みます。しかし微粒子は,電析の際および電解液を放置した際,凝集し易いため,電析膜中に微細且つ均一な状態で共析し難く,また,電解液を循環させる際に配管等に目詰まりを起こしやすいなどの製造プロセス上の問題があります。

一方,Znの様な平衡電位が卑な金属の水溶液からの電析においては,副反応としてH+イオンの還元反応が生じ,陰極界面のpHが上昇します。そこで,低pHで加水分解する金属イオンを第二元素として溶液に添加し,その金属イオンを加水分解反応により酸化物とし,その場でZn電析膜に共析させることを着想しました。これまでに,低pHで加水分解するAl3+, Zr4+およびVO2+イオンをZn電解液中に添加して,その金属イオンの酸化物をZnと共析させる研究を行っています。図1にVO2+イオンを添加した場合のZn-VO2複合電析挙動の模式図を示します。これまでにZn電析膜にVO2,ZrO2, Al2O3を共析させて耐食性を向上させることに成功しています(図2)。

現在,Zn電析膜に活性金属酸化物のナノ微粒子を共析させ,その含有率を膜厚方向で変動させた犠牲防食能を有する高耐食性亜鉛系複合電析鋼板の開発に取り組んでいます。酸化物の含有率は,電流密度に依存するため,ダブルパルス電解法,電流走査法により酸化物の含有率を膜厚方向で変動させます。この組成変調型複合電析膜は,Zn系電析鋼板の傷部,端面においてFeが露出した箇所で,従来不可能とされた犠牲防食能と耐久性を両立させる次世代型の複合電析膜として期待されます。

JSPS科研費基盤研究(B)(JP21H01672, 研究代表 中野博昭)に関する研究成果として、2021年9月17日開催の表面技術協会講演大会にて,Zn-Zr酸化物電析膜の微細構造に及ぼすパルス電解の影響に関して,Zr酸化物の共析はパルス電解により,均一になることを報告しました。

合金電析挙動のメカニズム解明

合金めっきは,単一金属のめっきに比べ耐食性,潤滑性,耐摩耗性等の特性を大きく改善することができます。防食用としてZn−鉄族金属(Fe, Ni, Co), Co-Sn, Sn−Zn合金電析,装飾用としてCu−Zn合金電析が研究開発されています。また,鉄族金属−Mo, W合金電析は,耐食性,耐酸性,耐摩耗性等に優れているため,数多くの研究が行われています。Sn−Zn,Cu−Zn合金電析では,電気化学的に貴なSn, Cuが卑なZnより優先析出する正規型共析となり,これは単一金属の電析から予想される通りの結果です。しかし,Zn−鉄族金属合金電析では,電気化学的に卑なZnが貴な鉄族金属より優先析出する変則型共析挙動を示します(図3)。一方,W,Moは,水溶液から金属として単独では電析せず,鉄族金属との合金としてのみ共析可能である誘導型共析の挙動を示します。この変則型共析,誘導型共析は,単一金属の電析からは予測できない学術的にも非常に興味深い現象であり,異常型共析に分類されています。本研究室では,これまでに異常型共析のメカニズムを解明することに成功してきました。しかし,均一電着性に優れるアルカリジンケート浴からのZn−鉄族金属合金電析の変則型共析挙動については未だ不明な点が多く,光沢剤,電析条件の影響を調査することにより,変則型共析の更なるメカニズム解明に取り組んでいます。

電気Znめっき膜の結晶形態制御

電気Znめっき鋼板は,電析膜に傷が入り鋼板が露出してもZnの犠牲防食作用が働き,鋼板を防食することができます。電気Znめっき鋼板は,薄膜有機被覆処理が施され,耐食性,耐指紋性等に優れた高機能化成処理鋼板として,家庭電化製品等において未塗装で幅広く使用されています。有機複合被覆鋼板の外観には,Znめっき膜の外観がそのまま反映されるため,Zn皮膜の外観品質を向上させることが求められています。Zn皮膜の外観は,Znの結晶形態に依存して変化します。また,表面外観以外にもZnめっき鋼板の主要な特性であるプレス成形性,耐食性,化成処理性は,Znの結晶形態により変化します。このため,Zn皮膜の結晶形態を制御することが重要となっています。そこで,本研究室では,Znめっき膜の結晶形態,結晶配向性に及ぼす電解条件,電解液の種類,電解液への微量無機,有機添加剤,原板への有機物予備吸着などの影響について系統的に研究を行っています。図4に示しますように原板Feと電析Znの結晶粒界が一致し,電析ZnはFe上でエピタキシャル成長していることが分ります。Znの成長過程を電気化学AFMによりin-situ観察したところ,Zn板状結晶のマクロステップが[210]方向に沿面成長している様子が観察されました(図5)。鉄鋼の表面処理に多用されている電気Znめっき膜の結晶形態を電析過電圧およびZn/鋼板のエピタキシーの両面から更に厳密に制御することを目指して研究を行っています。

基幹金属Zn, Cu, Niの電解製錬における浴中不純物,添加剤の作用機構の解明

長時間の電解製錬では,陰極での電析物に凹凸が生じ,凸部が対極である陽極に接触しますと電気ショートが生じ,電流効率が悪化します(図6)。そこで,電析物が平滑になるようにCu電析ではゼラチン,チオ尿素,塩化物イオンが添加剤として加えられています。今後,地球規模での鉱石の低品位化が避けられない状況にあり,電解液中の不純物が増加することが懸念されます。不純物増加にも対応できるように,電析Cuの表面形態,結晶組織に及ぼす各種添加剤の相乗効果を解明する研究に取り組んでいます。

一方,高硫酸濃度溶液からのZn電析では,液中に不純物が混入すると電流効率が著しく低下します。そこで,不純物をその作用機構に応じて4群に分類し,電流効率に及ぼす各群の不純物の悪影響について研究してきました。しかし,直近の研究では,不純物の種類によっては電流効率が増加する事を見出しました。図7に示しますように溶液中に塩化物イオンが存在しますとZn電析の抵抗が減少し,電流効率が上昇することが判明しました。Zn電析の分極抵抗がZnの結晶配向性に影響を及ぼすと推察されます(図8)また,これまでZn電析の電流効率に最も悪影響を及ぼすと言われていましたアンチモンにつきましても極微量であれば,逆に電流効率を上昇させることが分りました。そこで,Zn電析の電流効率を改善する不純物,添加剤の組み合わせにつきまして探索実験を行い,相乗効果を解明する研究に取り組んでいます。

PAGETOP